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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべログ⑭

ついのべログ

世の中わからないことだらけだね。

 

小さな手と手が繋がって揺れている、そんな取り留めのない景色を見ているだけで胸の真ん中のところが温もりを醸し出す。『かーらーすー、なぜなくのー』重なる幼い歌声はたどたどしく、詰まっていた息を優しく解く。貴方が去った夏が過ぎ、秋が来る。そうして私は貴方が居らずとも、生きていくのです。

 

彼女との出逢いは突然だった。京の街から少し離れた閑散とした土地の片隅、彼女は小さな体を丸め、廃屋の裏にうずくまって時折吹く寒風を凌いでいた。「お父さんやお母さんは」持ち合わせていた饅頭を差し出し尋ねた私に、彼女は少々怯えた様子を見せながら頭を振った。「みんな、みんな死んじゃった」

 

涙も枯れた様子で淡々と呟く幼い女の子に、思わず言葉をなくす。このご時世、戦災孤児は珍しくない。辺りを歩けば独りでも逞しく生きようとしている子ども達を幾人だって見る。しかし、彼女はその子らとは違う目を、全てを諦めている目をしていた。「…泣いていいのよ」私に彼女は、やはり首を振った。

 

「うちに来ない」行き場がなさそうなか弱い少女をどうにも放っておくことができず、手を差しのべる。彼女はその手をじっと見つめ、それから私の顔に視線を移す。透き通るようなつぶらな瞳が、少女の戸惑いを語る。「私、隣町で習字教室を開いているの。そこで住み込みのお手伝いしてくれないかしら」

 

心配いらないわ、大丈夫、悪いようにはしない。どの言葉も彼女を納得させるには不当な気がして、私は母にすっからかんと嘆かれた頭を悩ませる。私は、彼女をどうしたい?弱い存在を助けて自分の心を満たしたいだけ?「…違う」呟いて、少女と視線を交わす。きっと私は、この子に一目惚れしたんだわ。

 

夢うつつなような、そんな宙に浮いた気持ちを抱いていた。隣でうとうとしている君もきっと同じ気持ちなのだろう。頬を緩め目尻を下げ、幸せそうな顔をしている。流れる映画の声と雨音がまどかに混じる。ふわり、溶け込んだ空気の中で、君の唇に触れた。

 

「馬鹿、心配したのよ」私の両頬を掴んで言う彼女の顔は、今にも泣きそうに歪んでいた。「…ごめんなさい」滅多に崩すことのない彼女の表情を崩してしまうほどに、心配を掛けてしまっていたのか。今更事の大きさに気付いた私の小さな謝罪に、彼女は一つ息を吐いて私の背に手を回した。「許さないわ」

 

扇風機が回る音が、丸く部屋に落ちる。風鈴が風に靡き、その軽やかな音を響かせる。今年も、暑い夏がやって来た。団扇で火照った顔を扇ぎ、少女は夏色に笑う。一度しかない夏、なんてよく聞くフレーズを口にして、団扇を置いた少女は外の世界に向かって駆け出した。放られたアイスティーの氷は溶ける。

 

彼女を差し出せ。そう言い渡され、頭が真っ白になる私が口に出来たのは「そんな」の一言で、それに比べて落ち着いた様子を見せる彼女は「先生」私を呼んで此方を見た。「私は大丈夫です」「でも…」躊躇う私の頬に、彼女はそっと唇を寄せる。「先生が私に沢山の愛情をくれたから、私、笑顔に戻れたの」

 

幾ら洗っても赤黒い血の色が嘲笑う手、小さな移り変わりを見留めることも叶わない目、素敵なものを素直に素敵だと思えない心。こんな汚れた私受け入れてくれる人など、きっとなく。「もう嫌」己を抱いて蹲る、私は。それでも世界をアイせるでしょうか。

 

でも君は君のままで、いいんだよ。