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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべログ⑮

ついのべログ

今日はどんな一日でしたか?

 

ケーキを焼いたの。下手なりに頑張ったのよ。君は言う。「だから、良かったらでいいんだけど、あのね」電話越しに聞こえる君の声は緊張を孕んでいて、僕はつい笑いを零してしまい、何を笑ってるのと咎められる。「ごめんごめん、つい」僕を誘いたい君が可愛くて、愛しくて。なんて白状するわけもなく。

 

何も聞こえないということが、こんなにも恐ろしいこととは思ってもみなかった、と機能しない耳に触れた。あれだけ近くで連続して爆発音を聴いたからなのだろう、暫らくすれば治ると高を括っていたが、なかなか回復しない。まさかずっとこのままなのでは。瞳を大きく揺らしたその時、骨ばった手が私の耳を塞ぐ。驚いて顔を上げれば、目の前で今誰より会いたかった人が微笑んでいた。

 

―夢なら良かった。現れたその人を見て、瞳を揺らす。貴方に合わせる顔などないというのに。まだ未練がましく想っていることが、ばれてしまうのに。神様は本当に意地悪だ。伸ばされた腕は私を包み込んで、私はその胸にすっぽり収まる。「…逢いたかった」零された音を丁寧にこの耳は拾ってしまった。

 

「隣空いてますよ?」背から掛けられたよく知る声に振り向くと、愛しい女の子が微笑んでいた。「君の為に空けてたんですよ」冗談めかして答えれば、彼女はクスクスと笑う。手を差し出して誘えば、すぐに体の側面に彼女の体温がじんわりと混じる。「帰りに寄り道しようか」その言葉に、喜色が示された。

 

溢れる想いを伝えたくて、なかなか伝えられなくて、頑張った時に限ってうまく伝わらなくて。少しめげそうになりながら、今日も彼女に向かう。「もう、まどろっこしいのはなしにするよ」不思議そうな彼女に僕は告げる。「君が好きなんだ」どうやら彼女の赤い顔を見るに、今度こそ伝わったようであった。

 

明日は来ないなんて誰が言ったか。「夜は必ず明けるよ」明日は必ずやって来る。だから、ねえ、哀しまないで。僕は透けた手で愛する人の頬を撫でる。「…君は僕がいなくても、きっと真っ直ぐ歩んでいけるさ」いや、そうではないなと発言を撤回した僕を、涙を流したままの顔が見つめる。「大丈夫だよ。僕はいつだって、君の傍にいるから」それを忘れないで。たとえ君に、僕が見えなくても。

 

頬に触れた指先が、すっと輪郭の線をなぞる。滑らかな白肌は艶めかしく微笑み、募る愛しさを溢れさせる。流した指で顎を支え、静かに落とした口付けは甘い味がして、頭がくらくらする。嗚呼、まるで麻薬のように君の存在は僕を魅了する。さあ、今日も君を目一杯愛そう。指先に愛を、唇に思慕を乗せて。

 

君のその身もその心も清らかで美しいから、きみの手をとれば僕も美しいものになれる気がした。「気がした、だけだった」夕暮れ、坂の途中。伏せた睫毛が微かに震える。僕を照らす夕焼け空は、君の幻を映す。僕はきっと、君の手を取り続けてはならない。

 

美味しいものを食べて、綺麗なものを見る。君が隣で笑う、僕も笑う。暖かな木漏れ日が二人を包む。そんな幸せで不毛な夢から目を醒ますときが、ついにやって来たのだろう。遠くから、僕を呼ぶ声がする。離したくないと女々しく縋る僕を、君が微笑った。

 

可憐に、されどあどけなくはにかむ彼女に、堪らず抱きつく。「どうしたの」私を抱きとめた彼女は、その背を撫でる。嗚呼、あまりに優しくて、好きが溢れそうだ。言いたくて、伝えたくて、どうしようもない。「…すき」決心して、小さく口を開いた。彼女は相変わらず背を撫で続ける。「私も大好きよ」その言葉に嘘偽りはないことも、けれど己が望んでいたものとは違うことも、わかっている。だけど。今だけは、私のことだけを考えていて。縋るように願った。

 

穏やかな生活を送れていることに、感謝。