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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべログ⑰

ついのべログ

それでも生きていかなければならないのでしょうか。

 

「悪い悪い」許してくれ、な。頬を膨らます私の頭を撫でて、優しく笑う。ねえ、いつからあんたはそんなに柔らかく笑うようになったの?仕様がないわね、と呟いた私にかたじけないとふざけた口調で返した彼は、私から離れていく。「…ばか」その背を見送る私の声に、この気持ちに、早く。(気づいてよ)

 

暫く仕事が忙しく、会えずにいた彼女からは「忙しそうね、頑張って」と一度メールが来ただけで、よくある「会いたい」みたいな可愛い言葉はなかった。でも、俺は知っている。彼女が誰より寂しがり屋で、我慢しいだって。気障に花束なんて抱えてさ、今から二週間分の愛を君に贈りに行くよ。待ってて。

 

最近僕らは、擦れ違いばかりだね。原因はわかっている。僕が未熟だから、君を不安にさせてしまっているんだろう。「私があなたの妻になるなど、烏滸がましい」と身分差を気にする君の頬には涙の跡が残っていて、僕はそっと君を抱き寄せる。「僕が妻にしたいと言ってるんだ、守ってみせるから」だから。

 

「すごいね」さっきまで私達が踊っていたステージを見つめて、あなたは言う。「あんなに多くの人達の前で、楽しそうに踊って歌えるなんて」「そう、かな」「うん。すごいよ。僕ならきっと、尻込みしてしまう」首を少しだけ傾けた私に訴える瞳はきらきらと輝いていて、私はその輝きに惹き込まれた。

 

好きじゃ足りない、愛しているじゃ嘘っぽい。貴方は頭を悩ます。「どうすれば君にこの想いを伝えられるんだろう」その言葉だけで私は十分に嬉しいのに、「そうだ、君は僕にとって命の水なんだよ」だなんて。これじゃあまるで、幸福の過剰摂取だわ。

 

まるで、柔らかな光を放つ月にそっと包まれたように優しい、あの温もりが忘れられないと私は宛もなく貴方を探す。「もうやめなよ」友人は度々、悲しそうな顔を隠しもせず言う。「わかってるの」月を見上げる声は自分でも驚くほど細い。貴方がいないことも、あの温もりはもう一生、手に入らないことも。

 

読んでいた本を逆さまに寝せて眠りに落ちた貴方の、その指にそっと触れた。男の子にしてはあまりごつごつしていない指は、それでも一本一本がしっかりしていて、異性を感じる。「…なに、してるの」いつの間にやら目を覚ましていたらしい貴方は、指に触れていた私の手を奪うとその手の平に口付けた。

 

「離してよ」荒い感情のままに叫ぶ彼女を力ずくに抱き締めて、耳元で囁く。「嫌だ、離さない」「どうして」回した腕に、生温い水滴が落ちる。泣いてもいいから、俺の知らないところで泣こうとしてくれるな。「俺が離したくないから。それだけじゃ不満か」彼女は涙を零しながら、俺の腕を掴んだ。

 

惹き込まれたの、きらきらの瞳に。屋上から街を眺め、彼女は言った。反応を返せない私に、彼女が唄う。「目が合った瞬間に君を好きになるとわかってしまった それがどんなに辛く悲しくても 私は」君を、好きになる。細い声になりながらも唄い終えた横顔に、私は瞠る。それは、初めて見る表情だった。

 

私が愛してほしいと願ったから、あなたは苦しんだのでしょうか。淡黄色の着物に咲く白い菊がはらりと音を立て散ってゆく。こうなることははじめから決まっていたはずなのに、私は未だあなたの影を必死に探している。歩き疲れて棒のようになった脚が立ち止まった先に、石が積まれた細やかな墓が見えた。

 

わたしは、そうは思えません。