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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべログ⑳

ついのべログ

一気に夏から冬になりましたね:;(∩´﹏`∩);:

 

客が訪れたことを知らせる、ベルの音が男の耳に届いた。もうすぐ閉店時間だというのに、などと一々眉を上げることはしない。目前の席に着いた女性は、結んだ口を開く。「一杯お願いします」「良いんですか、保育士が平日の朝から飲んで」ムスッとした顔を隠しもしない女性に、手元のグラスに目を向けたまま言う。「良いんです、今日は保育園がお休みなので私達も休みなんです」「…そーですか」知り尽くした彼女の好みに合わせて適当に作ったカクテルを差し出しながら、漸く女性に目線を合わせる。「いつまで怒ってるの」「…別に怒ってません」「相変わらず嘘つくの下手だな」グラスに添えられた細い手にそっと触れれば、その手がピクリと微動した。

 

君の名も、君の哀しみも、父の過ちも、彼らの嘘も、国の過去も、君の望みも、君の密かなる秘め事も。全てを知らないままの、あの頃に戻れたら。
王のことも、貴族や官吏たちのことも、魔導士達のことも、神官達のことも、生まれも、育ちも、秘めた印も、この力さえも。全てを受け容れるだけの器量が、私にあったのなら。
((それはどんなに、しあわせだったことか。))

でも、もう、戻ることは出来ない。どんなに願ったとしても、戻ることなど、赦されない。

 

絢爛華麗な着物を鎖骨が見えそうな程に緩く纏い、大きな帯を正面で結んだ遊女は、髪につけた簪の一つに細い手を伸ばした。「…あんまり、じぃっと見んといておくんなはれ」その仕草が色っぽく見蕩れていると、遊女は恥ずかしそうに微笑む。「…綺麗だなって」素直に零せば、言われ慣れているのだろう、「おおきに」と返ってきて、少し嫉妬を覚える。今まで何人の男達が、この女子を好きなように愛でたのだろう。考えても意味の無いことを考えてしまうほどには、余裕が無い。肩を抱き寄せて、耳元で囁く。「一目見たときから、僕は、君に」嗚呼、なんて不毛な恋に、落ちてしまったのだろうか。囁いた言葉に遊女が目を伏せるのを、見逃すことが出来なかった。

 

飾り立てることが昔から好きで、今朝も早起きして化粧を施し、直毛な髪を軽く巻いて、高い位置で結う。「…よし、」これで漸く、私は私の望む、理想の私に変身できる。私にとって己を飾ることは、心の盾を作ることと同等なのかもしれない。愛されたい、必要とされたい。必要とされなければ、誰も私を見てくれない。愛してくれない。だから私は毎朝、『皆に平等に優しいわたし』になれる魔法をこの手で掛けるのだ。きっとそれは、一生続く。

 

手作りは重いよね、やっぱり。冬の寒さも真っ盛り、淡いピンクのマフラーに顔を埋めて溜息を吐く。初めて自分から好きになった人にチョコを渡そうと考えたのはいいが、市販の物にするか、ここは気合を入れて手作りするかで数日も迷っていた。結局、どちらも用意してみたのだが、勇気が出ずに渡せたのは綺麗なラッピングの市販の物だけ。「しょうがない、持ち帰って自分で食べよう…」はあ。自分で試行錯誤して包んだチョコを掲げて、また溜息を零す。今までこんな些細なことで悩んだり躊躇ったりしたこと一度すらなかったのに、なんで彼に対してはいつも臆病になってしまうんだろう。白い息と降り出した雪が交じったとき、掲げたままのチョコを手ごと奪われた。

 

右も左も嘘吐きばかり。思わず声に出た言葉に、左手を背に隠した少女はせせら笑う。結局、何を信じればいいのかわからなくなってしまった。誰のことも信じられないと知ったから。少女の独り言は鉄道信号に照らされた夜に溶けてゆく。左手は、まだ背に。気づけば、遠かった電車の音が大きくなっていた。

 

どうにかしてと呼ばれた先には、珍しく泥酔した花が机に突っ伏していた。酒豪の癖に、一体どれだけ呑めばこんなになるんだろうか。「花、帰るよ」肩を叩けば花は体を起こし、とろんとした目を善四郎に向けた。「じぇんしろーだぁ」「はいはい、善四郎ですよ」「あのねぇ、ずっとあいしてね」あゝ全く。

 

 「花、好きだよ」君は覚えていないかもしれないけれど、これは二度目の告白だ。一度目は一年前、ふと零した「好きだなぁ」という言葉に君は不思議そうに笑ったっけ。あの時は届かなかったけれど、今度はちゃんと届いていますか。なんて聞く必要もなく、君は頬を赤らめて瞳を潤ませていた。「私も、」

 

生まれてきた意味を知りたいと願っていた。父が「子ども」―私を欲した理由を、いつも考えていた。それは私が生きる意味に繋がるはずだと信じていた。でも、それは違ったのかもしれない。「ソラ」私はこの声に呼ばれる為に、この手に愛でられる為に、この人を愛し愛される為に。こたえはここにあった。

 

世界がまだ優しかった頃、私達はひたむきに恋をしていた。相手をひたすら想うだけのそれは、時に脆く、危ういものだった。しかし恋は次第に愛へと変化し、それは強い絆となり、拠り所となった。それ故に、私は彼の手を自ら手放した。離れていても、愛した日々があるから、私の想いはとこしえだから、大丈夫。あなたはあなたの道を、私は私の道を。

 

冷え性なので手足が辛いです(´・_・`)