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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ21

ついのべログ

溜まっていたものを消化する秋。

 

誰もが畏れたこの紅い髪を一房取ったその指は、心を溶かすように、温かくて優しかった。「蘭ちゃんの髪、綺麗ね」そう微笑んだ彼女に、私は俯く。「綺麗なんかじゃ、ないよ」“祟りじゃ”、“鬼の子”。囁く声が頭で騒ぐ。“気持ち悪い”。突き刺さった言葉が胸を射抜く。「私はこの髪が、嫌い」この髪は、私が何より要らなかったもの。「どうして?天女さまみたいで、とっても美しいのに」「...てん...にょ」聞き慣れない単語に首を傾げれば、彼女は大きく頷く。「そう、天女さま。前におじじ様が絵巻を見せてくれたんだけど、蘭ちゃんみたいに、珊瑚色の髪をしていたの」目を輝かせて言う彼女が荷物の中から取り出して広げてみせた、初めて読んだ天女の羽衣物語。ねえ、花。私ね、あの日貴女のお陰で、この紅髪がちょっとだけ好きになれたんだ。

 

命はいつか終わるものと知っていて、それでも人は生きたいと願うものであると、そう花は信じて疑わなかった。しかし、目の前の囚われのお姫さまは虚ろな目を花に向け、「早う死んでしまいたい」と囁く。人質として両親と引き離された挙句、一人山城の外れに建てられた屋敷に閉じ込められた彼女は、大した娯楽もなく、時が過ぎていくのを淡々と見ているのみと話す。「昔は早う生まれた土地に帰りたいと思うておりました。されど、今のわらわには帰る場所などありませぬ」「…でも、だからといって、死にたいだなんて、そんなこと―」困惑する花に対し、姫は会話に似つかわぬ艶笑を見せる。「そなたは死にたいと思うたことがないのですね」「…ありません。だって、命がなければ、笑うことも喜ぶこともできません」花の実直な返答に、満足したのか、それとも気分を害したのか、姫は目を笑わさぬまま低い音で呟いた。「まこと、おめでたいおなごじゃ」

 

なんて澄んだ瞳で、この人は私を見るのだろう。何もかも見透かすようなその目が、恐ろしい。心の奥底にひっそりと隠した、黒い部分を見つけられてしまいそうで、怖い。私の心を突くような、直接的な言葉が、痛い。一番言って欲しくない言葉なはずなのに、言われて何処かほっとしている自分が居るのは、何故。ああ、もう。この人といると私は、息の仕方すら忘れてしまいそうだ。

 

君との出会いが悲劇の始まりだったなんて言ったら、君はどんな顔をするかな。君の色んな顔見てきたけれど、思い浮かぶのはいつも、お国の人たちのことを考えている時の、すこぶる幸せそうな顔。ねえ、君は私をどんな顔で見ていたっけ。もう私、思い出すことも出来ない。何が間違いだったのか、なんて。

 

恋仲という許されない関係を始めた時から、どう足掻いても一緒になれる道はないのだとわかっていた。きっと自分だけでなく相手もそうで。ゆえに先の話は一度もしなかった。そして今、やはり隣に君はいない。選択を悔やむことはない。でも、言えなかった言葉が胸に残ったまま。(いつまでも、愛してる)

 

例えどこにいたって、彼は彼であるのだろう。そんなぶれない彼を好きになったのは、憧れを持っていたからなのかもしれない。こう在りたいという理想像そのものだった。自分の道をひたすらに歩み、弱さも辛さもを自分の力に変え、努力を惜しまず、けして驕らない姿が、いつからか誰よりも輝いて見えた。

 

最期の時を看取りたかった、とか。あなたと永く過ごしていたかった、とか。あなたをもっとちゃんと知りたかった、とか。あなたが星になった後に、幾らでも溢れてくる後悔紛いの願いが、私の心を支配する。また再びあなたと見えるまで私はきっと、叶いもしないその願い事を、ずっと心で願うのでしょう。

 

珍しく拗ねた様子の愛しい少女は、僕の脇腹の辺りで着物を軽く掴んで離さない。そのくせ目を合わそうとせず、話し掛けても知らんぷりを続ける。本当にどうしたんだか、と胸に抱き寄せてみれば、彼女はようやっと口を開いた。「他の人、見ちゃ嫌」いつも素直すぎるくらいなのに、なんて不器用な独占欲。

 

例えばこの身が空の彼方の高く遠い場所に行ってしまったとしても、私はすぐに貴方を見つけて、そして貴方の元まで真っ逆さまに落ちて行くのだ。「その時は、ちゃんと抱き留めて下さいね」自身の胸に体を預け愛らしく笑む花を、善四郎は抱き締める。「もちろん」こんな天女さんなら、幾らでも歓迎だ。

 

二人のことが何故か周囲に筒抜けらしい。そんなに自分はわかりやすいのだろうかと頬に手を当てれば、その手を優しく外して彼は唇を寄せる。「これは、誰にも言わないこと」微笑んで告げられた言葉に、一瞬で林檎みたいな色になった顔を小さく上下に振る。こんなこと、誰かに言えるわけ、ないじゃない。

 

そういえば私、恋愛小説って読んだことないのに恋愛もの書いてるな…。