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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ27

ついのべログ

久々に凪あすを毎日ちょっとずつ観ている11月です。

 

はやくおとなになりたい。そう願っていたはずの少女は城で揉まれ、出逢ってしまった彼と想いを交わした先で、今までとはわけの違う高い壁の前に震える脚で立っていた。(これを上手に躱すのが大人になるということなら、大人になどなりたくない)譲れないものは譲らない、と少女は壁に何度もぶつかる。

 

引き立てるということ。それは生まれたその時、兄を支えるという役目が与えられた僕にまとわりつく、永遠の課題なのかもしれない。妾腹で四男たる僕は、一生表舞台には立てないのだとさえ思えた。(嗚呼、でも)公儀からの感状を掴む震える手に重ねられた温もりの為、自の足で舞台に立とうと誓おうか。

 

「あんた、男の風上にも置けないわね」「か弱い女の子を無理やり連れ去ろうなんて馬鹿な真似、私の目の前でしないで頂戴」竹刀を担いだ小さくて華奢なその女の子は、身代金目的で私を誘拐しようとした男を叩きのめし、そう言い放った。「大丈夫」呆然としていた私に差し出された手は白く、私はその手を取って立ち上がる。まるで物語のヒーローみたい。チェックのプリーツスカートから覗く足は、先ほどの力強い走りを連想させないくらいに細い。「助けてくれて、ありがとうございます」ぺこりと頭を下げた私に彼女は「ああ、いいの。放っておけなかっただけだから」とひらひら手を振る。「それよりあんた、こういう輩には気をつけなさいよ。可愛いんだから」きつそうな顔がにこりとしたときの破壊力って、凄まじいのね。そんなことを思いながら、私は取ったままの彼女の手に視線を移したのだった。

 

ここから飛び降りたら、死ぬのかな。学校の屋上、その縁に立ち、蘭は地上を見下ろしていた。心臓が痛いくらいに鳴る。それは恐怖ではない。左右の手首に巻いた包帯は、長袖のカーディガンに隠れて見えない。こんなに暑いのに、と街ゆく人は明らかに怪訝な視線を送る。「何してんの」時折吹く風に身を任せていると、背後から声がした。驚いて振り向けば、そこには知らない男子生徒。やけに派手な蛍光カラーのヘアバンドをした彼は、甘そうなミルキーピンクの棒キャンディを手に笑う。「こんな天気良い日は、死にたくもなるよなぁ」あっけらかんと言う彼を前に、声が出ない。この人、何。蘭の動揺も知らず、彼は蘭の隣へと立った。「ね、一緒に死のうか」「へ、っ」漸く出た音は、虫の息のような小さなもの。しかし彼はそんなこと気にも留めず、屈託ない顔を向けてくる。「死ぬだけでお前の色々、全て消え去るなら、いい選択だと思うけどね、俺は」「…で、でも、どうして貴方まで、死ぬ、んですか…」狼狽を隠せない蘭の問いに、彼は空を仰いだ。「会いたい奴がいるんだ」空に、たぶんいる。初対面の人のそんな姿に胸が締め付けられて、何だか自分の苦悩が惨めに思えてきた蘭は縁から降りる。「ん、止めるの」「…誕生日まで、もう少しだけ生きてみます」左手首を右手で掴んだ蘭を見て、彼も縁から大袈裟にジャンプして降りる。「そっか。じゃ、誕生日にまた会おう」手をひらひらと振り、屋上を去る名も知らない彼を眺めたまま、蘭は久々に吹き出した。「私の誕生日、知らないのに」

 

好きだから一緒に居たい。側に居てほしい。単純なことだとあの日、あの子は微笑っていた。でも、違う。その単純が何より難しいのだと、いつでも真っ直ぐな彼女は知らない。またなと向けられた背に手を伸ばす。届かない背に、伝えられない君にそっと零す。「側に居させて」(たったその一言なのに、な)

 

差し出された手を取る。ぎゅっと握る力が痛いほど嬉しい。導かれた場所は貴方の隣で、そのしっかりした肩に体を預ける。じんわりと伝わる貴方の体温が優しくて、涙が出そうになる。「すず」私を呼ぶ貴方の声があればそれだけでいいと思ってしまう。たとえ、ここに永遠がなくても私は今を大切にしたい。

 

「世界は君だよ、それだけだ」望んだはずの言葉、夢物語でしかない言葉。はっとすればやはりそれは夢で、されども現実でなかったことに安堵している自分がいて、胸の辺りをぎゅっと掴む。望んでいた言葉のはず。例え夢でも聞けたなら幸せだと思っていた、のに。「…いやだ」零れた言葉が、真実だった。

 

暖かい日だった。読み物をしていた凪は午後下がり、あまりの気候の良さに、微睡みに沈み込む。『凪』優しい母が己を呼び、凪の小さな両手を兄達が取り笑う。最期と何ら変わらぬ背格好をした兄達は凪を母の元まで導くと、交互に凪の頭を撫で、消えてゆく。「兄上っ、兄様っ」「なりませぬ」叫ぶ凪を制したのは母で、凪は母の姿も半透明になってきていることに気づく。しかし母は顰められた凪の顔を見ると、ふわりとその体を抱きしめた。「そなたの兄らは、そなたのような賢い妹を持ち、幸せでした。母は、そなたのような心優しい娘を持ち、ほんに幸福でした」だから、これからはそなた自身の為に生きるのです。それが母の、兄らの、唯一つの願い。目が醒めた凪の頬には、一筋の涙の跡が残っていた。

 

「凪」海の畔に聳える小さなお城の隅に建つ、小さな屋敷。八つ年上の兄は凪の頭を撫でる。「母上のことをよろしく頼むぞ」いつになく優しい表情を見せた兄は、それから凪の元へ帰ってくることはなかった。―目を覚ましたときには既に夜明けを迎えていて、凪は寝衣のままふらふらと屋敷を出る。ここは安芸とは違い寒さもかさむが、凪は案外この地を気に入っていた。「…兄上、」白い息は、紅葉の季節に消えてゆく。安芸の秋も美しかった。でも、凪はあの季節が嫌いだ。長兄が消えた、次兄が殺された、母が壊れた、季節。嗚呼。秋など、早く終わってしまえばいい。

 

「離して、」滅多に聞くことのないか細い声に、音哉は余計に彼女を抱く力に力を込める。「離したくないって言ったら、怒る?」嫌だね、なんて子供っぽい抵抗とわがままを詰めた言葉は、耳元で静かに囁く。この真面目な想いが伝わるかはわからないけど。「ばか」どうやらそれは心配なかったようだった。

 

調べ物もしなくちゃな〜。