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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ28

ついのべログ

突然少女漫画が読みたくなった。

 

それは音もなく、ふっと指先からすり抜けていく。生暖かい空気だったり、ジメジメした湿気だったり、凍えるような風、だったり。そういうなんでもないもののように、俺の中からすり抜けていく。いつもなら去るものを追いはしない。でも、おまえだけは別だ。おまえだけは、黙って見過ごしてはおけない。

 

手の甲、手のひら、指先。足の甲、ふくらはぎ。「もうやめて、」一々ひゃっと言いながら至る所に落とされる口づけを受け止めていた凪はついに我慢ならず、真っ赤に染まった顔で呟いた。動きを止めた音哉は紅い顔に微笑む。普段見ない柔らかな表情に驚いた凪は、続けられたそれを許容するしかなかった。

 

出会った頃は、殆ど変わらなかった。中学生になってから、花の背が止まり、善四郎の背はぐんと伸び、差がついてきた。そして。「⋯」無言で善四郎の頭を睨みつける花に、善四郎は頬を掻く。少なく見積もっても十センチは高い。「うう…」花は項垂れる。「うーん…男女の差は仕様がないものだと思うけど」「そうなんだけど…見えるものが違うようになっちゃったのかなって思ったら、悔しくて、寂しくて」「…僕は、嬉しいんだけどなあ」抱き締めやすく、口付けしやすくなったからね。のほほんと笑う善四郎に、桜色の頬が一瞬にして桃色へと変化した。

 

「なけなしの愛で良いならば、君にあげるよ」目前で微笑む青年は、花に告げる。「その代わり、ありったけの想いをくれるかな」変なの。花は思わず呟く。「変?」「そう、変。あなたは私になけなししかくれないのに、私からはありったけを貰おうとしてる」おかしいと思わない?花の言葉に青年は声を立てて笑う。「おかしいのは君の方だよ。愛と想いは天秤にかければ愛に比重が傾くんだ。それでも僕の愛をほしいとは思わないかい?」艶笑する青年へ、花は誘われたように契約の口付けをする。「よくわからないわ」でもあなたが寂しそうだから、私が癒してあげる。そんな呟きを、共に。

 

舌で舐め取った涙は、潮の味がした。突然の善四郎の行動に、泣いていたはずの花が呆けている。「…しょっぱいな」どうでもいい呟きに、花は更に唖然とする。そんな花を善四郎が笑う。「涙、止まったね」「…あ、」花は目元に手を遣ると、柔らかなそこを触れる。濡れてはいるものの、もう涙が滴ることはない。「泣き顔も可愛いけど、花ちゃんはやっぱり笑ってる方が、ずっと可愛いよ」だから、笑って。花は涙の跡が残る顔を、緩ませた。

 

「どうして泣いてるの」掛けられたあどけない声に、慌てて少年は目を擦り、目線を上げる。「泣いてなんか、ないよ」「嘘。絶対に泣いてたわ」強がる少年に、少女は頬を膨らませる。「私、男の子の痩せ我慢は嫌い」「痩せ我慢なんかじゃないってば」引き下がらない少女に苛立ち、少年は珍しく声を荒らげる。驚いた少女は目をいっぱいに見開いて、それから目尻をキッと上げた。「友達なんだから、一緒に悲しむことくらいさせて!」言いのけた少女に、今度は少年が驚く番だった。「男の子だからって、強がらなくていいの。女の子の前でだって、弱いところ、見せて」どうして、君が泣くの。ポロポロと滴る涙は、少年の胸を締め付けた。

 

生まれも育ちも全く違う私たちは、出逢うことなどなかったはずなのに、神様の悪戯で、相手の存在を知り、ついには恋に落ちてしまった。私たちはそれぞれに約束された未来がある。この恋が、禁断の恋と呼ばれるに値するのだとすれば、私はなんて大罪を犯したのだろう。嗚呼、でも。(この人の笑みをずっと見ていられるのなら、許されないこの恋に、身を投じても良いわ)

 

ベッドに残る花の髪を見つけ、そのココア色を指で摘み上げる。それは先程まで彼女がこのベッドにいたという何よりの証拠で、善四郎は思わず口元を緩ませる。独占欲とはまた違った感情に、名が付くことはきっとこれから先もないのだろう。「…うん、でも」善四郎は独り呟く。近い未来、毎晩を同じベッドで過ごす、そんな日々を僕は望んでいるんだ。

 

温厚だの優しいだの言われていても、たまには少しからかってみたり、苛めてみたり(勿論愛ある行動である)、そんなこともしてみたくなるわけで。頬を赤らめて口付けをせがむ彼女に、たまには自分からしてみたら、と告げれば「意地悪」、上目遣いで不服そうに彼女は呟く。なんやかんや、恋愛に関しては初で奥手なところがある。しかしながら、そんなところも好きなのだな、これが。

 

口から零れ落ちた「好き」の一言に、誰よりも自分が驚愕し、思わず両手で口を塞ぐ。まずい。こんな色気のない森の中で、しかも派手に転んだばかりの汚れた姿で告白するつもりなんて、毛頭なかったのに!何度も描いた理想の告白が頭の中でバリバリに割れる。情けないやら恥ずかしいやらで俯いた私の手をやわやわと握り、彼は私の顔を覗きこんだ。「俺も君と、同じ思いだよ」

 

でも、持ってた漫画は殆ど手放したんだよね…。