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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ29

ついのべログ

痺れた左手の感覚がない今日です。

 

水を含んだ、淡い色で彩られた世界。その優しい世界で生きたかった。しかし現実はそうもいかず、優しく温かかった場所を守るために大人になった私を彩る色は、赤と黒ばかり。轟々と燃え盛る炎。目を汚す血液。世界を覆ってしまう闇夜。胸糞悪い務めを終えた日には、優しいものなんて、何処にもないように思えてしまう。噫、あいつの元へ行きたい。あの腕の中にいれば、優しさを思い出せる気がした。

 

旅立ちはいつだって寂しいものだ。今では大好きなこの全寮制の学校に行く為に、馴染んだ家から出ることになった日も、それはもう、寂しくて仕方がなかった。でも、今の私は旅立ちが寂しいだけではないと知っている。「才介くん」笑顔で別れようと決めていた。「今まで、ありがとう」良かった、ちゃんと言えた。旅立ちは、次の舞台に向かう為のもの。「俺こそ、ありがとう」君が次の舞台でも輝けるよう、私は私の舞台で祈ろう。

 

『拝啓、愛した人。君の探し物は、見つかりましたか。』たったそれだけが書かれた一通の文は、確かに昔愛した人の字だった。「…探し物?」眉を顰めて過去を探るが、何のことやら、思い出せない。だが、あの彼女がこんな文をわざわざ寄越したのだ。何か、思うところがあったのだろう。「…あ」男は小さく声を零す。“俺が生かされた意味、ちゃんと見つけたい”いつだったか、彼女に語った小さな夢。「そうか…」彼女は今でも、覚えていてくれた。案じていて、くれた。男は文机に紙を広げ、筆を持つ。『拝啓、愛した人。探し物は、意外と近くにありました。』

 

どうやら私は、少し優し過ぎるらしい。「優しさも度が過ぎると、自分の方が疲れちゃうよ」心配そうに友は言う。でも私としては、自分が優しいなんて思えないのだ。だって、みんなが優しいと言う私は、全て偽善で、本当のところは自己愛だらけの人間。月夜の中、ぽつりとそう零せば、隣で体温を分け合う彼は私の左手に右手を重ねる。「偽善でも、自己愛からのものでも、それが相手にとって優しさならそれでいいんじゃないか」しっかりと握られた手に、視線を落とす。「俺は全部含めて君だと思うよ」でも、疲れるなら優しく在らなくてもいいんだぞ。その優しさを帯びた声は、私の胸に染み渡った。

 

天才デザイナーやらと持て囃される男に出逢ってからというもの、凪の日常はガラリと変わった。売れないモデルだった凪は、男のプロデュースによってみるみるうちに名が知れるようになり、今では忙しい毎日を過ごしている。「あ…雪」クリスマスに初雪なんて、粋なこと。凪が白い息を吐いたところに、どこかで見たことのある紙袋が目の前にぶら下がる。これは、あの男のブランドの。はっとして振り向いた先にはやはり男がいて、凪はその胸に拳をぶつける。「随分なご挨拶だな」「ばか、ばかばか」ほんとバカ。暫く会わないとか言っていたのに、こんな日に会いに来るなんて。「…ほんとに救えないばかだわ」少しの期待を抱いて、こんなもの用意してた自分も。凪は手に下げていた紙袋を男の横腹に思い切り打ち付けた。

 

花壇に咲く色鮮やかなゼラニウムに目を惹かれ、何故か暫くの間凝視していた。「何してるんだ?」何処からともなくひょっこり現れた音哉が呟く。「ゼラニウムか」「そう」「お前にあげたいなあ」「何でよ」凪が眉を顰めると、音哉はふっと笑い声ともとれる音を零す。「コレの花言葉、知ってるか?」「知らないけど」「だろうな」予想通り、というような声色に思わずムッとした凪が音哉の方を向く前に、彼が耳元で囁いた。「君ありて、幸福」

 

しくしく、シクシク。涙を啜る音は森に反響し、小人達の背中は寂しげに揺れる。通りがかった音哉が小人達に近寄ると、その奥には棺桶に眠る美しい少女がいた。抜けるように白い肌は雪のようで、音哉は目を奪われる。「彼女は…」「白雪姫です。悪い魔女に毒林檎を食べさせられてしまって…」ハンカチをびっしょりと濡らした小人が答えるのを聞きながら、音哉は棺桶の前に跪くと、その美姫が持つ赤い唇に口付けを一つ落とした。「…あ、れ…」パチリと目を開いた姫は、至近距離にある音哉の顔を見て、ぎゃあと短く悲鳴を上げる。「あ、あんた、誰に断りもなく、何してんのよ!」白雪姫はそう叫ぶと、破廉恥な真似をした王子の右頬にビンタをかましたのでした。めでたしめでたし!

 

この世に生を受けて今日まで、総じて四十ウン年の長いようで短いような日々を、ただひたむきに、真っ直ぐに生きてきたつもりだ。大事なものが増えすぎると心が折れる、なんて誰かが言っていたが、それはきっと嘘だろう。だって花は、大事なものが増える度に強くなれた。「大事なものがたくさん出来たことって、きっと何よりの財産ね」さあ、この世に別れを告げ、目を閉じようではないか。世界の終わりは、幸せで。

 

凍りついた心は、何を思うこともなく、何を感じることもない。ただ音を刻むだけ。「凪」まるで人形な女に、音哉は出来るだけ優しく声を掛ける。凪はその声を辿り、音哉に目を向けるも、その目はぼんやりと靄がかかったようだ。「起きたら雪が積もってたぞ。初雪だな」寒くはないか、半纏をもってこようか。反応がないと知りながらも告げる言葉に、能面のような表情が微かに変わった気がして、音哉は彼女を抱き寄せた。

 

足首に残った傷痕を、彼が指の腹でなぞる。「…大事な女の子の体に傷が残るのは、やっぱり嫌な気分になるな」彼の呟きに、思わず吹き出す。「今更ね」これまでについた傷は、この躯に多く残っている。「そうなんだけどさ」不服そうな彼の頭を撫でる。「この傷は全部、貴方と出会えた証なんだから、そんな顔しないで」柔らかい髪が、揺れた。

 

冷え性なので寝るときも靴下が手放せません!