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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

キャラが掴めてないとか言っちゃ駄目

創作SS

『ひとつのかたちの始まり』の続き。
変なところで終わってるのはそこから先を書けていないからです。取り敢えずかけているところまで載せちゃいます。

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新高山城の主、小早川隆景は自身の生家でもある主家・毛利家の年賀の挨拶や宴を終えた後も毛利氏の居城・吉田郡山城に留まり、現在進行形で制圧中の出雲尼子氏との戦の今後を内々で話し込んでいた。
そこでまだまだ当主として至らない元就の孫・輝元が至らぬことを口にし、隆景自ら折檻する羽目になった事実もあったのだが、それはさておき正室・阿古から、食客として迎えることとなった重臣・乃美宗勝の娘が到着したとの報せを受け、隆景は一度帰城した。
信頼を置いている家臣とはいえ、その娘とは顔を合わせたことはおろか、姿を目にしたこともない。
さてはてどのような娘であろうか、阿古に対し無礼を働くような娘であれば直ぐに送り返してやろうとも思っていたのだが、実際にその娘を前にした隆景は珍しく瞬いていた。
「のみむねかつがむすめ、なぎにございます」
数えで六つになったばかりの彼女は、舌足らずながらハキハキとした声で名乗る。
これがあの宗勝の娘なのか。まことにか。
などという失礼なことを思いつつ、頭を上げた凪の顔を目に入れる。
緊張はしているようだが、こちらの気迫に負けはしないというような強い意気を感じさせるのは、目力が強いからだろうか。
確かに、こうして顔を見てみると、その目は小早川が誇る勇将であるあの宗勝そっくりだ。
小早川隆景だ。そなたのことはそなたの父から聞いている」
「いたらぬところもあるかとぞんじますが、どうぞよしなにおねがいいたします」
『どうです、うちの娘賢いでしょう』とでも言っていそうな重臣の顔が浮かんでしまうのが些か腹立たしいが、それを置いてもこの娘はよく教育してある。
この歳では言葉の意味も分かっていないだろうに、一言一句違わずつらつらと挨拶を述べるのだ。
驚かぬほうが難しい。
あの愚甥にも見習ってほしいものだ、などと思わずため息をこぼした隆景に凪は頬を強張らせ、小首を傾げる。
「ああ、決してそなたに呆れたのではないから、そう固まるな」
はい、と安堵した声で相槌を打った凪に、隆景の後ろに控えていた阿古が「殿は穏やかなお方ですゆえ、大丈夫ですよ」と優しく声を掛ける。
隆景が留守にしている間に随分と仲を深めたらしい阿古と凪の様子に隆景が居心地悪く身を正すと、阿古が囁いた。
「凪はとても賢いのですよ。私が読んでいた論語を隣で聞いていただけで、覚えてしまいました」
「ごぜんさまがなんどもよんでくださったゆえです」
謙遜かふるふると首を左右に振る凪に隆景が「ほう」と嘆息すると、阿古は機嫌良くして更に続ける。
「それだけではありません。凪は二つの頃より竹刀を握り、今では刀と薙刀、それから弓を稽古しているそうです」
「流石は備前守の子だな」
筋が良いかは兎も角、女子とはいえ自分の身を守るためにも早くから武術を身につけさせておくに越したことはない。
意外にもしっかりしている宗勝の教育に、隆景は心裡で唸る。
「ちちがもうしておりました。せんらんのよにうまれたものたるもの、おなごであろうとじぶんのみはじぶんでまもれるようにならねばならぬと」
しかし、まことにこの娘は満ちて六つにもならぬというのか。
幼子にしてはあまりに利口な姿勢、利発ぶりに隆景が感心していれば、阿古が突然、「あっ」と声を上げた。
「どういたした」
「申し訳ございません、夕の膳について指示をするのをすっかり忘れていました。少し席を外させていただきますね」
直ぐに戻ります、白々しい芝居を打って部屋に隆景と凪を残した阿古に、隆景は内心深くため息をする。
子どもの相手は不得意だと知っていように。
阿古が消えて再び表情筋を固まらせた様子の凪にちらりと視線を向け、隆景は阿古と出会った頃のことを懐う。
子どもは苦手だった。
特に女子はどう接すればよいのか、全く以ってわからなかった。
それは恐らく、十八になるまで己が末っ子だったからであり、早くから他家に養子に行っていたために、兄や姉の子たちともそう近しい関係が取れずにいるのが原因なのだろうと自分の中でそう分析し納得していた程度には、子どもは不得手だった。
されども、苦手なことほど神は試練として与えたがるようで、極力子どもと関わらずに生きていた隆景の元にも、試練という名の少女が現れた。
「…阿古ともうします」
総ては当時の主・大内義隆と父・元就の策略で、沼田小早川家の当主である繁平が若年且つ病弱で盲目なために小早川の行先を懸念し、彼を尼子氏との内通の疑いを掛け、隠居・出家に追い込むと、竹原小早川家を継いでいた隆景に繁平の妹を娶らせる形で隆景に家督を継がせ、沼田・竹原の両小早川家を強引に統合させたのだった。
突如隆景の前に現れた、まだ八つという花嫁は寝所でこうべを垂れた後、見せた瞳は色もなく、蒼白い顔で隆景を見上げた。
それはそうだろう、まだ兄と離されて日も浅く、更に目の前にいるのは兄を小早川家から追いやった張本人なのである。
いくら謀に直接関わっていないとはいえ隆景は、父を赤子の時分に亡くし、母も病で前年に亡くしたばかりという彼女の、唯一の肉親を奪ったのである。
まだ世の是非もわからぬ幼子だ、憎まぬほうがおかしいだろう。
視線を交わしたまま一言も口にしない阿古を見兼ねて、隆景は寝所を立った。
「私は少し酒を呑んでくる。先に休まれるがよい」
視線が痛いと感じたのは、あれが初めてだったかもしれない。
怨念や憎悪が篭った視線ならば何度も向けられたことがある。
けれど阿古の視線には、一切感情がなかった。
「…あんな幼子を、私にどうしろというんだ」
枡を掲げた先で満月が己を嘲笑っているように思えるほどに、隆景は消沈していた。
「あの、おやかたさま」
そんな日々も今となっては懐かしく思えるほどには隆景も阿古と心を通わせ、今では周囲に「おしどり夫婦」と呼ばれるようになった。
昔に思いを馳せていた隆景を呼び覚ましたのは凪で、彼女は相変わらず背筋を伸ばして正座している。
足が痺れるだろうから足を崩してよいと告げれば凪は素直にそれを受け入れ、体勢を楽なように崩す。
「それで、いかがした」
呼びかけたからには何か話があるのだろうと踏んだ隆景に、凪が言いづらそうに口を小さく開いた。
「おやかたさまは、とてもあたまのよいおかただとちちがもうしておりました」
「…そうか」
褒められて悪い気にはならないが、それを言っていたのが宗勝だと思うとどうにも背が痒い気分になる。
「おやかたさまは、おなごにちえはいらぬとおかんがえですか」
「…は、知恵?」
思わぬ言葉に、肘掛けに掛けようとした肘があらぬ方向へと落ちていきそうになり、隆景は慌てて体勢を元に戻す。
「みなは、おなごにちえなどひつようないから、まつりごとやへいがくなどまなぶなといいます」
それはそうだろう、と隆景は目前で溌剌と喋る凪を見遣る。
隆景には両親に大層可愛がられた姉がいたが、両親は彼女に政には決して近づけようとしなかった。
いずれ何処かしらの家に嫁ぐにせよ、嫁の務めは世継ぎを成すこと、家を守ることであり、戦をすることでも政治をすることでもない。
可愛い娘に生臭いものを見せたくはない、難しいことは男に任せておけばいい、親心とはそういうものなのだろう。
宗勝とて、それは同じなのだろうと隆景にはそう思えた。
「されど、なぎはおとこしゅとおなじようにまなびたいのです」
射し込む光を受けて、晴れた日の水面のように煌めく瞳は隆景に憧れを語った。

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続きは…書くかな書けるかなって感じです。