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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ36

ついのべログ

長編書くにあたって、ちゃんとお城や屋敷の設定考えよう!と調べてます。

 

透明度No.1女優なんて謳われて、日々を仕事に追われていたら、いつの間にやら三十路目前。幼い頃からの夢はお嫁さんで、今頃は優しい旦那さんと可愛い子どもたちに囲まれて幸せに過ごしていたはずだったのに。そんなことを母の前でつい零せば、いつの間にやら所謂お見合いの席がセッティングされていた。「はじめまして、一宮花と申しま…」朱色に牡丹が映える振袖を纏った花は、顔を上げた瞬間、挨拶はそこで途切れ、思わず口をあんぐりと開けた。だって、そこにいたのは。「藍川です、よろしくお願いします」チャコールグレーのスーツをまるで雑誌の表紙のように着こなした、何度か共演したことのある人気俳優だったのだ。「な、なっ…」どういうこと!?と隣に座る母の顔を見れば、母はすました顔で相手側の両親と挨拶を交わしている。「驚いたよ、まさかお見合い相手があの人気女優なんて」爽やかすぎるほどにこやかに話し掛けてくる藍川に、花は固まる。同業者は色々と面倒だから、そういうお話を頂いても断ってきたのに。どうして相手の写真を見もせずにこんなところに来てしまったんだろう。これこそ、後悔先に立たず。「あの…私、同業の方と結婚するつもりはないんです、けど…」消え入るような声で告げれば、藍川は特に気にもとめずに小首を傾げる。同年代の男性なのになんだかあざとく感じるのは、彼の持ち味だろうか。「どうして?」「どうしてって、貴方もこの世界にいるなら、わかるでしょ?色々と面倒じゃ、ないですか」畳み掛けるように伝える花に、雷藍川は獲物を狙う獣のように、艶やかに笑う。「残念だな。僕は君のこと、幸せにする自信、あるんだけどなあ」緊張で喉が渇いて口に含もうとした水が、コップごと倒れたのは、絶対にこの人のせいだ!

 

「初めまして、天使です!」そんな台詞を土産に僕の前に現れた、羽根の生えた少女は未だ僕の部屋にいる。「あっ、善四郎、お帰りなさい」「ただいま」最初は違和感のあった自称天使との生活も、いつの間にやら慣れてしまった。彼女と過ごす時間は、思ったよりも居心地がいいのだ。…何より、僕が帰ってくる度に嬉しそうに抱きついて来る姿に、僕と話すだけで楽しそうに笑う姿に、困ったことに恋に落ちてしまったようで。「今日は何があったの?」「うーん、何から話そうかな」その前にと制服のブレザーを脱げば、彼女は当たり前のようにそれを受け取り、ハンガーに掛けた。「ありがとう」「これね、私のささやかな楽しみなの」「楽しみ?」「そう!人間のお嫁さんみたいじゃない?」無邪気に言い放つ彼女に、思わず噎せる。「ごほごほっ、ごほっ」「大丈夫!?お水、お水…」水を取りに部屋を出ようとする彼女をどうにか引き止めるのは、何も家族に見つかったらまずいからではない。彼女はどうも僕にだけしか見えないようで、家族も友人も彼女の存在を知る者は一人もいない。その上、どうやら彼女は僕の家からは一歩も出られないようだった。どうやってここへ来たのかと問えば、彼女が「神様に飛ばされちゃって」と舌を出したのは随分前のことだ。「でも、お水…」「大丈夫だから。ちょっと噎せただけ」「…わかった」どうにか納得したらしい彼女を隣に座らせる。掴んだ手は、そのまま勢いで繋いで、膝の上に下ろした。「あのね、善四郎」覗き込むように僕を伺う彼女に、首を傾げてみせる。「なに?」「言おうか迷ったんだけど…やっぱり、言うね」何かを決心した様子に、背筋を伸ばし向き合う。「わたし、帰らなきゃいけないみたい」「帰るって…」「神様から戻ってきなさいって、さっき伝達が来て」「そんな…」いつの間にか、手放し難い存在になっていた彼女が、いなくなるなんて。「…耐えられない」「え?」「帰らないでよ、お願いだから」繋いだ手を解き、その直後、彼女を羽根ごと抱き寄せる。「君がいない世界なんて、耐えられない」「ぜんしろ…」「僕は、君が好きなんだ。ずっと、一緒にいてほしい」彼女の宙ぶらりんの手が、視界にちらつく。純白の柔らかい羽根が、痛いくらいに目に入る。「…わたしも、」背中に細い腕が回ったのを感じた。「わたしも、善四郎がすき。だいすき」ずっと、一緒にいたい。ねえ、僕のこの思いと君のその思いがあれば、多分、何だって乗り越えることができるんじゃないかって思うんだ。さて、僕らがどうなったのかは、ご想像にお任せするとしよう。

 

この不器用な世界は、歪な形で廻っている。好きなのに好きだと言えず、仲直りしたいのに謝ることが出来ず、皆、心にわだかまりを感じて過ごしている。そんな中にたった一人、宝石のような少女を僕は見つけた。何もかもを受け容れる澄んだ心、汚れを知らない澄んだ体、見るもの全てが美しいのだろう澄んだ瞳。彼女の美しい世界を守りたい。それが、出会った頃からの、僕の密かな揺るがぬ決意。

 

その胸に体を預けて、その腕で掻き抱かれて、その唇で何度も口付けを交わして、それで。「…どうして、何もしないんですか」「…え?」聞いてるこっちだって恥ずかしいのだから、恍けるのはやめてほしいと頬を膨らませる。「ごめんごめん。え…っと、何もしない…っていうのは…その…」何故か照れて頬を赤らめる彼に、花は内心溜め息を吐いた。私だって純真無垢だなんて言われてきたけれど、人並みに、好きな人に触れて欲しいという願望くらいある。なのに、この人ときたら、まるで初心で。…知ってたけど。そんな彼が好きなんだけど!でも、やっぱり。「私ね、善四郎さまになら、何されてもいいです」「…そういうこと、軽々しく言うもんじゃないよ」「軽々しくなんてない。こんなこと、善四郎さまにしか言わないもの」ねえ、善四郎さま。わたしは『あなたに』どうにかされたい。

 

好きなわけない。そう自分にも周りにも言い聞かせてきて、早数年。気付けば僕は官吏学校の課程を無事終了し、正式に文官として秘書省に配属されて、日々を忙しく送っていた。姫とは、あの頃のように甲斐甲斐しく世話をする立場でもなく、ましてや軽々しく話すことも叶わない。だが恐らくは、これでいいのだ。もうすぐ姫は、第二皇女と共に三公に即位なさる。いつまでも過去の夢幻に囚われていれば、それこそ国務に支障が出る。そうして困るのは、僕ら官吏だけでなく国民全員なのだ。だから、これでいい。そう、今だって僕は、姫のことを好きなわけ、ない。

 

君の何処が好きだとか、僕が君を好きな理由だとか、答えは幾らでも出てくるだろう。一番好きなところや一番の理由を聞かれれば、いつもの如く迷ってしまうのだろうけど。「花ちゃんは、僕が君を好きな理由、聞かないね」ふと思ったことを口にすれば、君は小首を傾げる。「だって、あなたがわたしを好きだと言ってくれるから、それを信じてますもの。わたしが欲しいのはあなたの想いだけで、好きな理由なんていらないんですよ」やっぱり僕は、君には敵わないらしい。

 

目の前にはポロポロと大粒の涙を零し大泣きする、小さな赤子が二人。抱くと壊してしまいような、生まれたばかりの男女の双子だ。善四郎はオロオロと二人を交互に見る。どうしたら、この子達の涙は止まるのだろう。さっきおしめは替えたばかり、その後授乳も済ませていたから、きっとお腹がすいたわけでもない。織花を呼ぶのが先か、それともどうにかして泣き止ませるか。でもどうやって?そんなことを考えている間にも赤子達は泣き続け、気付いた花がやってきて、香乃を抱き、聡仁郎を善四郎に託す。どうやったら、笑ってくれるんだろう。零した独り言に花は微笑った。「わたしたちの不安が伝わるように、大好き、愛してるって気持ちも、この子達に伝わるんですよ」だからね、と花は香乃を抱いたまま、聡仁郎を抱く善四郎にぐっと寄る。「沢山、愛しましょうね」四人で、頑張って行きましょうね。花の呟きに、いつの間にやら泣き止んだ双子が、両親の顔に小さな手を伸ばした。

 

「早く大人になりたいな」花が無事に退院して初めての秋の日。十八歳の彼女は善四郎の部屋のソファーに体を任せ、呟いた。理由を聞けばきっと、「先生の隣を胸張って歩けるような女性になりたいから」とか言うのだろうと察し、善四郎は何も言わず、カフェラテの入った向日葵色のマグカップを彼女に差し出す。「ありがとう」「どういたしまして」「…でも、別にコーヒーでもいいのに」子ども扱いして、とでも言いたげに花は唇を尖らせる。「…急がなくていいよ」「え?」「さっきの話。急いで大人になられたら、困るなって」「どういうこと?」神妙な顔を隠さない彼女は、やはり純真無垢な少女で。しかしたまにふっと見せる大人びた表情や言の葉を知る度に、善四郎は複雑な心境になる。彼女はきっと、素敵な女性になる。僕なんて見向きもしないくらいの、とびきりな女性に。多分、怖いのだ。彼女の世界が広がって、僕をひたすら想ってきてくれた彼女が、僕から離れていくのが。「…僕は今の花ちゃんを好きになったんだからさ」「…うん」格好悪い大人の男の醜い感情は、気付かれないようにそっと蓋をした。

 

ずっと側にいてほしい、とか。私以外見ないでほしい、とか。ずっと私だけに愛されていてほしい、とか。ずっと私だけを愛していてほしい、とか。そんな自分勝手な願いばかりが私の体を支配する。こんな嫌な自分、今まで知らなかった。自己嫌悪することだって、今まで無かった。(恋って、こわい)嗚呼、こんなわがまま、言えない。

 

夕焼け空の下、凪は蔵の陰に隠れていた。誰にも自分を見て欲しくなかった為だ。昨晩遂行したばかりの任務が、未だ尾を引いている。枕元で灯りが灯る部屋が、そこに飛び散った血痕が、事を成した時の嫌な感覚が、この頭に残ったまま。震える手を胸に寄せた、その時だった。「やっぱりここにいた」人影と共に、今一番聴きたくなかった声がして、凪は思わず顔を伏せる。音哉はその様子を見て、無理に顔を上げさせることはしなかった。凪の隣に座り込み、彼女の頭を傾けさせ、自分の右肩に乗せる。「一つ、決めたことがあるんだけど、聞いてくれるか」返事をする余地も与えず、音哉は続ける。「ここはこれからの季節は特に、みんな頻繁に出入りするから、凪の隠れる場所には不向きだよな」肩に乗る頭が微かに動いた気がして、音哉はふっと目尻に皺を寄せる。「凪がこういうとき、一人になりたいのはよく知ってるつもりだよ。でも、俺が何もしないでいるのが辛いことは、おまえ自身理解しているはずだ。だって、おまえだってそうだろ」凪は図星を突かれ、言葉を詰まらせたような気分に苛まれる。「だから、提案があるんだ。おまえが俺の拠り所になってくれるように、俺をおまえの隠れ家にしてほしい」だから、今は会いたくなんてなかった。だって、彼の優しさに縋ってしまう。甘えてしまう。それではいつまでも、私は大人にはなれない。ああ、でも。今だけはまだ、子どもでいても、いいですか。

 

 元気になったら行きたいところ、沢山です。