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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

なんか似たような話書いたような気がしなくもない

創作SS

クリスマスイブからちょこちょこ書いていた短い話。大晦日に間に合わせました!

現パロで、善四郎と音哉がだべっているだけ。

。゜⋆。゜⋆

きらり。昨夜の雨が尾を引いている曇り夜に星が瞬いた気がして、善四郎は天を仰ぐ。今年も今日で最後、善いことをして終わろうではないか、などと半ば強引に言いくるめられ駆り出されたボランティア活動は、頭がおかしくなるくらいの寒さに凍え、丸半日をかけて終えたばかりだ。「ほい、今日のお礼な」年中無休、二十四時間営業のコンビニから出てきた友人は、いつもの軽い調子でそう言ってあたたかい缶コーヒーと肉まんを善四郎の両手に持たせる。「あ、りがとう」「まあ、こんな日に慈善活動させちまったしな」大晦日という世間でいえば特別な日に誘ったことに、少しの引け目はあったのだろう。友人は、善四郎の隣で子気味よい音を立てプルタブを開けた。「結構楽しかったよ」「それならいいけど。爺さんが人手が足りんって煩くてさ」図らずも揃いとなってしまった紺のマフラーに顔半分を埋めて、二人並んで缶コーヒーと肉まんに暖を頼る。「…けど、おまえは予定があると思ってたよ」突如、静かに、言い難そうに告げられた言葉は善四郎にとって胸を抉るようなもので、善四郎は一瞬息を止めて、それから友人に瞬きを見せた。「まさか」「おまえ、やましいことがあると無駄に瞬きするよな」あと、息を忘れる。嫌気がさすほど的確な指摘にやはりまた息を止めると、善四郎は先ほどのように夜空を見上げる。実はあの子もこの空を見ていた、なんてドラマなんかでよくある気もするが現実にあったとしても、残念ながらそれは今日ではない。ただでさえ星一つない曇り空で、たぶん今日も賑わう呉服店で慌ただしく働き回っていたはずの一つ下の女の子は、楽しみにしていた年の瀬の特別番組も忘れ、疲れて自室で眠りこけていることだろう。「…あんなに怖い顔した花ちゃん、初めてだった」何の脈略もなく善四郎が零した言葉に、音哉が目を丸くする。それを見留めながらも善四郎は、食べ終わった肉まんの紙袋をくるくると細長く丸め、白い息で詰まりそうな思いを吐き出す。「本当は、除夜の鐘を聞きに行こうって話してたんだ」一緒に年を越そう、新しい年を共に迎えよう、なんて微笑い合っていた日々が嘘のように、善四郎の心はざわざわと嫌な音を立てている。「でも、クリスマスに花ちゃんを怒らせちゃってさ」困ったふうに眉を下げる善四郎を、音哉はといえば「あの温厚な花嬢を怒らせるなんて、何したんだ」と呆れた目で見る。その視線に多少の居心地の悪さを覚えた善四郎は目線を缶コーヒーに移し、それからそっと口を開いた。「あんまり幸せそうに笑うもんだからさ、幸せでいてほしいなって、どこにいても君の幸せをずっとそっと守っていられたらなって、言ったんだ」傍から聞けば、恋人たちの甘い言葉だったのかもしれない。言った善四郎自身だって、その言葉を聞いた彼女は嬉しげに微笑むのだろうと思っていた。しかし彼女は、怒りを顕にした。「そりゃあ怒られるわ」善四郎の抽象的な言葉で大体のことを把握できたらしい音哉は、やはり呆れたように呟く。その隣で善四郎はあの日の花のことを思い返していた。『どうして、どうしてそんなふうに言うの』花が持っていたグラスに浮かぶ氷が、大袈裟なほどに揺れる。思っていた反応とは違うことに驚いた善四郎が目を瞠れば、花はグロスを塗ったコーラルピンクの唇を噛み、涙を浮かべた大きな瞳で善四郎を睨むように見つめていた。『わたしの幸せは、あなたが隣にいてくれないと完成しないのに』『まるで離れてしまうみたいに、わたしとあなたが隣同士にいる未来なんてない、みたいに言わないで』言葉を発する度に唇を震わせていた花は、きっと怒っていただけではなく、哀しんでいたのだろう。あの時は気づかなかった彼女の心情も、数日が経った今ならば察しがつく。缶コーヒーは既に空になっていて、それを奪った音哉が自身のものと共にごみかごに放る。「行ってこいよ」まだ間に合うさ、にっと笑う音哉に背を押され善四郎は足を一歩、進める。「おまえがそういう意味で言ったんじゃないことくらい、花嬢だってわかってるよ。ただあの子は素直だから、そういう風に聞こえて単純に悲しかっただけだろうさ」「…うん、わかってる」二人の間を吹き抜ける冬風が、善四郎の背筋を伸ばさせる。「ならいい。ほら、年が変わる前に、きちんと自分の想いを伝えてこい」音哉の声を皮切りに、走り出した足は確かに星明かりに照らされていた。