読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

あなたはわたしの憧れでした

創作SS

今日は、花ちゃんとお姉さんのお話です。

控えめに言って、花はシスコン。

。゜⋆。゜⋆

それはあまりにも早すぎる報せだった。
『百合、危篤。』
急がれた字で書かれた文を受け取った花は、すぐさま実家へと向かった。
確かに姉は、花が物心つく頃には既に伏せっていることが多かったほど、体が弱かった。
しかし、病弱でありながらも二人の子を元気に産み、ひいては産後の肥立ちが悪くなることもなく子育てしている体だ。
これからはそうそう病に伏せることも無くなろう、と両親が心より安心していた様子を覚えている。
それが何故、こんな急に。
心痛と焦燥と動揺とで混沌とした感情を胸に抱きながら、必死の形相で花は姉の元に駆け込んだ。
 「どう、したの。変な、顔して。」
部屋に入ってきた花を見て、真白い薄縁に伏せる百合は微笑む。
その微笑みは名の通り、百合の花の如し美しい。
随分とやせ細った姉の姿に、花は一瞬言葉を失い、それからその青白い手を取った。
「姉さまに早く会いたくって急いで来たから、こんな顔になってしまったんです。」
「ふふ。それは、ごめんねえ。」
か細い声は、花を癒す。
幼い頃、何より大好きだった音。
何より憧れていた人を失うかもしれないという恐怖に、花は体温の低い手を柔らかく握り閉める。
まだ、早すぎる。
まだ、失いたくはない。
「…花は、いつまで経っても、寂しがり屋、ね。」
「…そんなこと、ないですよ。」
「いいえ。そんなこと、あるよ。」
反論した花にくすくすと笑う百合の目には、懐かしい記憶が映っているのだろうか。
「一人でいるのが苦手なんでしょうね。あなた、いっつも誰かの側にくっ付いて、にこにこ笑ってた。」
残暑の熱気が籠る部屋に、夏の終わりを告げる爽やかな風が吹き入る。
それは、百合の命を繋ぐ糸を吹き飛ばすかのようであり、流れに必死に逆らおうとする花を嘲笑うかのようでもある。
「覚えてる?私が熱出して、母さまたちにお部屋に入ったらいけないって言われても、こっそり私に会いに来てくれたでしょう。なんだか、歪なお粥持って。『姉さま、早くよくなって、かるたしましょ。』って。本当、嬉しくてねぇ。」
こちらを見つめてくる瞳があまりに穏やかで、花は視界を滲ませる。
嗚呼、姉さまは自分の死期を悟っているのだ。
「正直言うと、あのお粥、あんまり美味しくなかったのよ。だけど、可愛くて仕方ないて妹が気張って作ってくれたものだもの。どんなに腕の立つ料理人のお粥よりも、きっとずっと、おいしかった。」
「わたし、行儀見習いに出て、随分お料理も上達したんです。今度は美味しく作れる自信あるから、食べてくれますか」
わかっている。
もう今の姉には、昔のように上体を上げて粥を食すことも出来ない。
それでも言わずにはいられなかった。
「そうね…。食べたいわ、花のお粥。」
しみじみとそう言った百合は、咳き込む。
花が慌てると、それを宥めるように百合は続けた。
「昔は何にも出来なくて、母さまに怒られてばっかりだった花が、何でも自分で出来るようになって、今やお侍さんの侍女なんて。本当、頑張ったのね。」
偉い偉い、まるで幼子相手のように笑う百合に、花の涙は堪らず溢れる。
「あら。泣き虫なとこは変わらない、わねぇ。」
花に握られた手に、百合が微々たる力をこめる。
「大丈夫、よ。花はもう、自分の足で歩いていけます。姉のうちが言うんだから、間違いはないわ。」
「いや、いやです、何をおっしゃるの。そんなこと、言わないで。」
涙を零して何度も左右に首を振る花の頭を、百合の空いていた方の手が優しく撫でる。
「花。あなたは、真っ直ぐで、心優しくて、私の自慢の妹よ。」
声なく泣きじゃくる己を、暫くの間撫で続けた姉のあたたかさを生涯忘れぬよう、心の奥深くで花は願った。
 それから数日後、百合は家族に見守られ、安らかに永らくの眠りについた。
享年、数え二十三。
佳人薄命の故事成語を正しくなぞったような、その早すぎる死を誰もが惜しみ、清らかな百合の花を手向けた。
とある八月、陽炎が揺れる日のことだった。 

。゜⋆。゜⋆