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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ41

ついのべログ

今年最初の、ついのべログですヾ(`・ω´・)ゞ

 

あの人の苗字のように綺麗な藍色の箱にありったけの思いを詰め込んで、いつか、いつの日かこの手で渡す日を待ちわびていた。鉄格子だけが黒光りする、暗闇の中で見えやしない利き手が胸の真ん中をぎゅっと掴む。この心臓は確かに動いているのに、この目はあの人を映せぬまま、今日も静かに閉じていく。

 

あの子は私にとって、唯一の光だった。愛されることを、そして愛することを疑わない彼女は汚れた私の心さえも受け容れ、いつしかその温もりは私の凍てりを溶かしていった。「あなたの行先が暖かでありますように」幾つもの命を奪ったこの手を胸に抱いて彼女が言った言葉を、私は忘れることができない。

 

其の青年の頭を撫でることができるのは、俺が知るだけで彼女だけだった。仮眠を取ることもなく何日も政務室に篭る青年を見兼ね、周りの目を盗んでそっと青年の元へ忍んだ彼女が、言い訳と文句を並べる青年の頭を半ば強引に、けれども優しい手つきで撫でる姿が、今でもこの目に焼き付いて離れないのだ。

 

その男に出逢ったとき、漸く自分を殺してくれる、私を縛る鎖を断ち切ってくれる人が現れたと思った。だが男は何を思ったか、それを為さなかった。私の身体を棄てるように首を絞める手を離した男は、止められていた呼吸と残る痛みに苦しむ私を冷めた目で一瞥すると、一言残し去っていった。「莫迦な女」

 

「ばいばい」困ったように笑ってそれだけを遺し、処刑台に向かう女を易々と見送ってしまった己だけは、きっと一生赦すことはできないのだろう。政務室で寝落ちした己の肩を揺らし起こしてくれる人間は、もうこの世に一人もいない。今でも寝起きに現れる幻想の女に、一つだけ願えるのならば。(許すな)

 

これは、国命だ。その、やけに落ち着いた低い声で告げられた言葉に、この身は、この心は、氷のように固まっていく。目の前で横たわる少女の穏やかな顔に触れていた指先までもが凍てついて、色を失う。彼女を失いたくない。その一途な想いを貫くことさえも、私を縛りつける鎖が決して許しはしなかった。

 

「可哀想な女だな」廻廊を歩く足を止めたかと思えば、男はそう呟いた。視線を辿れば、そこには我が国唯一の女軍人の姿がある。「国に忠義などないというのに、母親ひとりを人質に取られ、国の為に戦うという運命から逃れられず、鎖を断ち切るためには命を捨てるしかないと考えている、愚かで弱い女だ」

 

「旦那、寄ってかない」その声に目線を上げれば、赤の口紅が妖艶な美女が佇んでいた。「勤務中だから遠慮するよ」「なら、帰りにでも寄って。これうちのチラシ」ひらひら振る手に掴まされたのは四つ折の安っぽい紙で、瞬間万事上手くいったのだと理解する。おう、と応う俺に女はにやりと口角を上げた。

 

医務室にその日、珍しい客が訪れた。「こんなところを火傷するなんて、何をされていたんです」たまたま居合わせた女中に手当されながら尋ねられ、男はバツが悪そうに呟く。「火薬の指導をしていたら、新人が燃やした火薬が直撃だ」笑いたきゃ笑え、やけくそにそう言えば彼女は笑いませんよと微笑んだ。

 

いつだかの出会いを、俺は生涯忘れることはないだろう。紅く染まっていく世界を目にしたのは戦場で、あの頃はよく理解もしていなかった世の習いを知った傷跡だらけの手は、鋭く光る刃を握り締める。別に、何を恨むでもない。ただ、もう何も知らなかった少年には戻れないのだと感傷に浸ってしまうのだ。

 

久々に作った、人参のしりしり、なかなか美味しくできました(*´ω`)