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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ42

ついのべログ

今日は七草粥ですね(*^^*)

 

あの日出来た新しい家族は、今も私の隣にいる。夕飯を終え早くもうとうとしている同い年の義兄の鼻を摘めば、彼は心底吃驚した顔で私を見た。「え、なに」瞬きを繰り返す彼が面白くて笑えば、益々訳が分からないと首を傾げる。「何でもない」そう。何でもないから、お願い、私といつも兄妹をしていて。

 

春。桜舞う空の下、私は初めての恋をした。「事実、初恋は実らなかった。でも彼を好きになったことは後悔してない」伸びをした途端吹いた風が冷たいと身を震わすと、向かいに立つそいつは楽しげに笑い声を立てる。何が可笑しいんだか、呟く私にそいつは言うのだ。「お前が俺を選んだことが嬉しいのさ」

 

好きって気持ちを、誰にも知られるわけにはいかない。零すというより吐き出された弱々しい言葉に、返すに相応しい言葉も思い浮かばず円を描くようカップを回す。入り組んだ彼女の心も此方からすれば他愛もないことに縛られた面倒な女心なのだが、それを告げてもきっと彼女は首を振りやしないのだろう。

 

さっきまで雪の積もる道を繋いでいた手が離れて大きなストーブの前、身を寄せ合う。耳に入る吐息すら馴染んでしまったことに違和感を感じる私に、彼は囁く。「好きって言ったら、怒る?」「怒る」即答する私の耳に優しく触れた彼には多分、小さな呟きさえ聞こえていたのだ。「怒るわけ、ないじゃない」

 

好きなんだ、と何より聞きたくて、何より聞きたくなかった言葉を投げてきた圭太は哀しそうな目をしていて、やっと自分がどんな顔で彼を見ているのかに気づく。「…あ、」口の端から零れた音は震えていたが、そんなことどうでも良いと思えるほどに私は、総てを無かったことにする術を探そうとしていた。

 

きっかけは多分、些細なことだった。月に一度の市が開催され、外国の珍しい書物に夢中になっていた僕は通りがかった少女の栗の実色の髪が腕のボタンに絡まったことを、彼女の声で気づいた。二人で四苦八苦して漸く離れた距離にどこか寂しげな彼女の頬の赤らみに、触れてしまった、ただそれだけのこと。

 

兄上。無邪気に己を呼ぶ妹の姿が、今も瞼に焼き付いている。書庫で文献を探している内に寝落ちしていたらしい、事態を把握し膝上で開いたままの書物を閉じる。あの愛しい声を喪って、もう幾年が過ぎたろうか。二度と戻っては来ない音色に馳せる想いと涙の跡が、夕焼けに彩られた書庫に哀愁を漂わせた。

 

己は普通の娘だと、信じて疑わなかった。あの日夕焼けの中、意識を手放すまでは。「あの人は、私は存在すべきではないと言いました」鉄格子越しの、見知らぬ彼の瞳が烏のそれのように光る。「そうだとして、君は存在することをやめるのかい」優しく問うその声に、果たしてノーと言い切れるのだろうか。

 

河原で上がった花火が城からも見え、廻廊を行く者たちが歓声を上げた。持てるだけの書類を抱えた男は夜空を一瞥さえしたが、すぐに歩を進める。美しいとされるものを、美しいと思える心は既に失った。だけど。『殺せ』苦悶に満ちた其の顔が、どこか安心した其の顔が、美しいと心から思えたのは、何故。

 

 「これ以上生き恥を晒すくらいなら死ぬ」「殺せ」初めて会った時そう叫んでいたとは思えぬほどに、女は衰弱していた。大切な人を見殺しにしてしまった罪の意識は、騙され続けていたのだと知った絶望は、一生癒えることはないのだと嘆く女の腕を強引に引き、胸に抱いた悲哀を癒すのはきっと俺ではない。

 

明日から始まる大河ドラマが楽しみです。