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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ43

ついのべログ

新成人だけど成人していない件( ・◇・)

 

怖いのだ、肩を小刻みに揺らす少女を目の当たりにして、隠されていた感情に気づく。生まれてこの方、多くの人間に敬愛され続けていたこの少女はけれど今、地位を失いかけ何もかもを信じられなくなっている。そっと差し伸べたハンカチすら彼女は取ることを躊躇し、生涯側にいると誓った男に涙を見せた。

 

妾夫を見繕えという命令も、子を成せという無言の圧力も、噂を囁く声も、十七になったばかりの少女には全てが煩わしく思えた。人が行き交う廊下を小走りに急げば、はしたないと侍女の怒声が響く。人と違うのは国の皇女に生まれた、たったそれだけなのに、どうして、どうして。「自由に恋もできないの」


「王朝の発展の為には仕方のないこと、そうでしょう」当然のように宣う姉を反射的に睨んでしまったのは、それこそ仕方の無いことだった。皇女だから、先の世を背負う者だから。皆、この自由奔放な姫にそう言い聞かせる。だから何だと云うのだ。自由を説く真ん円い目は、姉を動揺させるには十分だった。

 

雨上がりの道で見上げた虹の美しさを、共有した誰かをいつか、お仕えする姫だけに密かに告げたいと思っていた。そうして私の内緒の初恋は美しい物語として箱に詰めて、一生開くことはない。そうしようと思っていた。それなのに、私の前に現れたあの日の誰かに、今も私は終わりの見えない恋をしている。

 

許されない想いというものがあるのなら、きっとそれは、僕が抱いているこの想いなのだろう。疼く胸を利き手で押さえて、服を握り締める。駄目だ、駄目なのだ。あの笑顔を独り占めしたいだとか、その手を引いてしまいたいだとか、それら全部、抱いてはいけないものなのだと自制できる術を、誰か、誰か。

 

逃げる、隠れる。気の弱い私の困った癖に呆れる大人達の中で、妹だけはいつも私を探してくれた。一番に見つけ出してくれた。「みいつけた」朝日のような笑顔で半べその私の手を引く、そう、今もまた。どうしてと、ずっと聞いてみたかったことに妹は誇らしげに言うのだ。「誰よりも姉上が大好きだもの」

 

噫、触れないで。果たして声に出せていたのか否かもわからずに、掴んだ袖口を胸元に手繰り寄せる。ひらりと舞った長い袖はその人を驚かせるには十分で、彼は切れ長の目を丸くしている。「お人を間違えておられるのでは」苦し紛れの言葉が彼を欺くことなど出来ぬと知りながら、黙ってはいられなかった。

 

この城を象徴する御殿から、集った民衆ににこやかに手を振る帝たる母の姿が何より好きだった。『陛下』『御上様』民衆に呼び掛けられる母が、何より誇らしかった。それが、私達姉妹だけの母親ではいられないことを意味していても、母の凛々しい後姿を見ることが叶うのなら、どうということはなかった。

 

変わりゆく世の中で変わらないものがあるとするなら、それが何なのかを教えてほしいと神殿で願った弱い日もあった。誰にも知られたくはないと、高鳴るほどに熱い胸を雪の中に埋めて沈ませた朝もあった。だけどそれも今日でお終い、物語は終末を迎える。「さようなら」手を振る私に、貴女は涙を零した。

 

雲間に月光が朧に射し、この夜を円く包み込む。実を言えば泣きたい夜だった。唇を噛み締め、目を見開いて、必死に涙を堪えていた夜だった。でも、雲に隠れていた月が姿を現した頃、月明かりを背負った彼が夜冷えしたこの身をぎこちなく、そっと抱き寄せてくれたからわたしは今、嬉しくて泣きたいのだ。

 

体調も良くなってきて、色々楽しみが増えました。