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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべログ44

ついのべログ

朝食べたぜんざいが美味しくて幸せです(*´˘`*)

 

夜が明けてもこの胸は未だ苦しくて、枕元の水を煽る。穏やかな朝に、がしゃんと音が響いたのは水瓶を手繰り寄せた時に机から落としてしまった写真立てが割れたからだった。散らばった硝子の破片の中に、母と幼き日の己の笑顔を見つけ、頭が痛くなる。もうここには何もかもないと、言われているようで。

 

炊飯器の蓋を開けた瞬間に、眼鏡が曇って何も見えない。それが煩わしくて、コンタクトを外しているにも拘らず眼鏡を外す。幼い頃からの読書が祟った弱視の裸眼は物の形を捉えられず、ぼやけた視界で茶碗を探る。右往左往している己の肩を叩く者があったかと思えば、からからとした笑い声が耳に届いた。

 

難しいと唸る彼女の肩を抱くように背後から助言すれば、その姿を見た者達は一人二人と離れていく。彼女は魅力的だ、心配になるほどに。「できた」ぱっと花開くような笑みも無邪気な声も、全部が人を魅了する、悲しいほどに。いっそ誰の目にもつかぬ場に、なんて思う僕に気付かず君はやっぱり笑うのだ。

 

自分のことは自分が一番わかっていると思っていながら、自分の気持ちがわからないと感じてしまうのは何故なのだろう。小走りで先を行く彼女を追う足が重く、先で己を呼ぶ声に応じることもできずにいる。彼女の背に浮かぶ三日月が、夜が目を閉じたことを知らせるようで胸に切なさが過ぎるのは、たぶん。

 

「わかってる」噫、灯火が反射して、呟くあいつの顔が見えない。昔の昔その昔、手を伸ばせば引っ張ってくれたあいつの幼い手はもうここにはなく、私が伸ばした先であいつは両手を背に隠す。「わかってなんかない」張り上げた声は、あいつに届いたろうか。真実も見えない中で、それでも私は声を上げた。

 

放物線を描く、この恋の行方を誰が知るというのだろう。確かに掴んだと思ったはずの想いはこの腕を跳ねて遥か彼方へ飛んでいく。追い掛けても捕まえても、それでもあなたはわたしから逃れていく。好き、大好き。そんな単純で明快な答えじゃ駄目だと言うの?問うたわたしにあなたは、悲しげに微笑んだ。

 

走馬灯の中で散りゆく花よ、この恋よ。たった一つだけの私の願いを、叶えてはくれないか。さようなら、今にも泣き出しそうな表情で、あの日の私が控えめに手を振る。違う、そうじゃない、貴方は、私は。首をふるふると振って、祈るように手を合わせる。彼の人との時間を、美しい思い出にはさせないで。

 

下向く目蓋がひくつくように動いたと思えば、彼女は口元にハンカチを当てる。いつもこうだ、泣くのが苦手な彼女を俺は、直ぐに泣かせてしまう。また泣かせたね、ごめん。彼女は首を振る。君のせいじゃない、彼女がそう言い訳するのもいつものことで、俺はといえば、もうどうすればいいのかもわからず。

 

涙で滲んだ景色は哀しいくらいに美しくて、愛しさが湧き上がってくる。私が、そしてあなたが生を受けた世界はこんなにも素晴らしいのだと、ただあなただけに伝えたくて、でもあなたはもう、私の元には帰ってこない。頬を伝い落ちた水滴に濡れた手は、戻らない日々を、戻ってこないあなたを探していた。

 

覚悟は出来ているつもりだった。敢えて語りはしない『いつ』が今日明日でもおかしくはないことも、視界から彼が消えてしまう日が来ることも、わかっていた。噫だけど、覚悟なんてそんなものは、それが形となったときには簡単に崩れ去ってしまう。裂けるように痛む胸を壊さないように抱き締めて、私は。

 

主治医から診断名を聞いてショック受けてた心も、ぜんざいの甘さで和らいだ…かな?