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拙いわたしの拙いぶろぐ

駄目人間代表が適当に書いた小咄をまとめて載せたり、大好きな戦国夫婦について語るだけ

ついのべ49

ついのべログ

久々にお犬さまと触れ合って癒されました(*๓´˘`๓)

 

数年振りの母の姿を目にした瞬間、世界が真っ黒に染まったようにも思えた。あの頃小さな世界でいい子ねと頭を撫でてくれた母はもう跡形もなく、子を喪った悲しみに打ちひしがれ、私を見る目も言葉を失うほどに虚ろだった。肩に触れる兄の手が震え、振り向いた先には見たこともない真っ青な顔が、私を。

 

よく知らないのです。呟く彼女に首を傾げた。「あいつのことです」「あいつは私のことをよく知っています、でも私はあいつのことを知っているようで、実はよく知らない」悔しげに下唇を噛む姿におやめなさいと諭し、されども気持ちは解ると微笑む。「知りたいのなら知ればいい、それだけのことですよ」

 

何度も、何度も繰り返した。この命に変えても救おうと、もがいた。その悲哀だけ奪い去って、彼女を助けようと奔った。噫、でも吾はどうやら彼女の運命ではなかったようで、血を流す彼女を涙ながらに抱きしめる、それを何度も繰り返すだけ。絶望すら覚えて次の世、彼女と吾の前には一筋の光が射し込む。

 

失ったものを惜しむことなど生きてきて二十年、一度たりともなかった。執着がないといえばそれまでだが、去るものを追いはしない、対象を尊重するそんな自分の性分が嫌いではなかった。だけど、だけども。ここ数年の高度成長で昔程見えなくなった星を数える。「ばいばい」星空の下、笑った彼女だけは。

 

答えはもう出てると、僕の胸を指差す君はやけに綺麗に笑う。「どうしてわかるんだい」「わかりますよ、だってずっとずっと見てきたんだもの」指先をくるくると回して「魔法をかけましょう」、君が言うから僕は呆れて首を傾げる。だけど君は少しも弱りはせず、囁くのだ。「貴方が私に素直になる魔法を」

 

林檎を咀嚼する。シャクシャクと気持ち良い音が響き、それに気づいた君が小さな手を僕に伸ばす。「ちょーらい」まだまだ辿々しい言葉は僕を虜にするには十分で、ママには内緒だよと林檎を手渡す。うさぎ林檎にした甲斐があった。君は「うしゃぎしゃん」とはしゃいで食べる様子をなかなか見せなかった。

 

蜜柑の皮を乾燥させたものをネットに入れて湯船に浮かべる。今では多くの種類の入浴剤が出ているから、こんな古風なことをするのはうちくらいなものだろう。肩まで浸かる湯船に立ち込める香りは亡き祖母を思い起こし、懐古が私を巡る。おばあちゃん。「ええ子ね」もう一度だけでいいから、私を撫でて。

 

冷凍ブルーベリーを盛った皿を目の前に置かれ、思わず瞬いた。「え…なに」訝しく見ると、彼は平然と「ブルーベリー」と応える。いや見りゃわかるけど。狼狽える私を余所に彼はブルーベリーを摘む、食べる。私泣いてたんだけど!恨めしく睨めば彼は「お前の男を見る目が良くなるようにだよ」と宣った。

 

何かを手に入れることで、何かを失うことが怖くて仕方がなかった。だから差し伸べられた手は跳ね除け、彼の想いも拒んだ。私は自分の想いを押し殺してでも、失いたくないものがある。失くしたくはないものがある。それが紛い物の平穏となるとしても。揺れる視界で捉えた彼の顔が、酷く悲しそうだった。

 

初めての恋は甘くて、だけど少し苦くて幾つもの涙を流した。でも、幸か不幸か泣きたいとき側にはいつもあいつがいてくれたから、散った初恋に別れを告げられた。「どうして私、あんな奴相手に苦しくなるの」初恋の比でなく痛む胸を押さえ、最後に見たあいつを憶う。私はあいつのあんな表情、知らない。

 

いつか犬か猫飼いたいな~